2023注目戦士

どよめきを全国でも!悲運も幸運に変える鉄砲肩

どよめきを全国でも!悲運も幸運に変える鉄砲肩

2023.04.24

【2023注目の逸材】 櫻井日陽 さくらい・ひなた 【所属】栃木・豊岡Jスターズ 【学年】6年 【ポジション】投手、捕手、三塁手 【主な打順】三番、四番 【投打】右投右打 【身長体重】151㎝47㎏ 【好きなプロ野球選手】村上宗隆(ヤクルト) ※2023年4月24日現在 5年秋の県大会の球場表示で最速99km/h。現在は常時、110㎞/h前後と思われる  規格外。想定や予想をはるかに超えるものを目の当たりにしたとき、人は思わず声を挙げるものだ。 「オオ~ッ!!」  野球を見慣れている大人や相手ベンチの指導者さえも巻き込んで、そうしたどよめきを巻き起こす鉄砲肩の6年生が、栃木県の日光市にいる。  豊岡Jスターズの櫻井日陽だ。捕手と投手が本職だが、武器がより際立つのは三塁を守っているとき。あまり経験がないとあって、転がってくる打球へのアプローチや捕球体勢やステップなど、基礎動作には改善の余地あり。だが、そこからのギャップで人々はよりおののくのだ。地面を踏み締めながら振られた右腕から放たれ白球の、あまりのスピードやどこまでも真っすぐに進んでいきそうな軌道に。 現在は正捕手兼二番手投手の副主将。二塁送球も見せ場で、勝負どころではマウンドから剛速球を披露する 「小さいころからお父さんとボールで遊んだり、2年生でチームに入ってからは自主練で一緒によく遠投をしています。あとは専門の先生に体幹のトレーニングとか、体の使い方とかを教えてもらっています」  年長から1年生までは、地域のライオンズクラブが主催するスポンジボールの野球でルールや楽しさを知った。遠投の距離は5年生に進級したころが56mで、約1年後の現在は70m前後。学校でのソフトボール投げは5年生で44m、校内1位だったという。  父・将大コーチは、地元の鹿沼商工高まで主に投手としてプレーした。「遠投ができるほど球速も出るし、体の使い方なども自分なりに分かってくる」というのが経験則で、息子の投げ方(フォーム)そのものには、ほとんど手をつけていないという。  マウンドに立っても、明らかに人よりも速くて伸びのある球を投げている。計測はしていないが、コンスタントに110㎞/hは出ているのではないか。現在は正捕手で、イニング開始前の二塁送球を楽しみにしている人もチームの内外にいる。 外野の頭を超すパンチ力も秘める。本塁打も数えていないが、5年生の2月までに2ケタは超えているという 「ポジションはピッチャーが一番好きで、もっと好きなのはバッティングです。(理由?)ホームランとかサヨナラヒットを打ったときに、みんなから『良いバッティングだったね』とか言われるところです」  自宅の敷地には、ネットなどを張った祖父手作りの自主練習スペースがある。チームの平日練習や父との自主練習がない日は、一人でティー台のボールを打ち込んでいるという。 チームが吸収合併  個人の努力だけではどうにもならない、ということが人生にはある。櫻井は最上級生となる前に、仲間たちと悲運を受け入れた。所属してきたチームが春でなくなることが決まったのだ。...

全国V2へ。胴上げ捕手よ、王道を行かん

全国V2へ。胴上げ捕手よ、王道を行かん

2023.04.04

【2023注目の逸材】 向 慶士郎 むかい・けいしろう 【所属】石川・中条ブルーインパルス 【学年】6年 【ポジション】捕手、投手 【主な打順】一番 【投打】右投左打 【身長体重】158㎝50㎏ 【好きなプロ野球選手】村上宗隆(ヤクルト) ※2023年3月19日現在  ※送球・打撃の縦向き動画→こちら 動画でチェック➡二塁送球、特大ファウルetc. 『優勝チームに名捕手あり』とは、故・野村克也氏の格言。同氏は捕手として打者として監督として解説者として、プロ野球をリードした大御所だが、冒頭の理論は学童野球にも当てはまる。  昨年の日本一、中条ブルーインパルス(石川)は怪物クラスの投打二刀流・服部成(星稜中に進学予定)が大車輪の活躍だった。ただし、当時5年生の正捕手・向慶士郎を抜きには、チームは全国出場すら危うかったかもしれない。  昨年の向は怖いものなしだった。全国予選で打ちまくり、全国準決勝の土壇場では二走としてトリックプレーを仕掛け、決勝のホームを踏んでいる。ワンプレーを見ただけでも、類まれな運動神経を推し量れるが、何より特筆したいのは捕手としてのテクニックと完成度の高さだ。  16m先から110km/h超のスピードで迫ってくるボール。これをミットに収めるか、地面に落ちれば体で止めて前に転がすか。全国舞台なら、どの捕手もある程度はできるが、精度の点で昨夏は向の右に出る選手がいただろうか。 サイズに頼っての力任せではない。野球知識、基礎技術、身体能力、経験値を伴う「世代No.1捕手」と言っていいだろう  昨年のV腕・服部は、1学年下の頼もしき女房についてこう評している。 「どんな球も絶対に止めてくれるので、いつも思い切り投げられていました。あとは、アウトにできるところを探してリードをしてくれるので、すごく良いキャッチャーでした」  リードは三振を奪うだけが狙いではない。中条の選手たちは野球の本質を学んでおり、状況に応じてどこでどういうアウトを奪いにいくのかを全員が理解して守っている。向はその上で、走者や打者も観察しながらエースにサインを出していた。そして全国3回戦では、完全試合をアシストしている。  捕球技術が高いから、握り替えもステップもスムーズで、二塁送球にリズムと力がある。小飛球やバント処理への反応と一歩目の鋭さに、また目を奪われる。 「アニメの『メジャー』を見て、1年生から野球を始めました」  3年生から投手と捕手を兼務するようになり、昨年の春から捕手にほぼ専念。「自分でもこのままキャッチャーでいきたい。打つほうが好きで、夢はプロ野球選手です」 昨夏の日本一以降は、打撃に悩む時期もあったという  ...

「杉並No.1」から「世界一」へ。進境著しいエースに広がる夢

「杉並No.1」から「世界一」へ。進境著し...

2023.04.03

【2023注目の逸材】 加賀陽翔 かが・はると 【所属】東京・西田野球クラブ 【学年】6年 【ポジション】投手、一塁手 【主な打順】三番、五番 【投打】右投右打 【身長体重】152㎝36㎏ 【好きなプロ野球選手】坂本勇人(巨人) ※2023年4月2日現在 動画でチェック➡投球2&打撃1   「プロ野球選手」という夢がこの春、さらに具体的になった。 「僕も日本を代表するピッチャーになって、あそこで投げてみたいです」 「あそこ」とは、世界最高峰の舞台、WBCだ。この2023年3月、14年ぶりに世界一に返り咲いた侍ジャパンの、全員一丸で盛り上げながら勝ち進む姿に、11歳の加賀陽翔は胸を躍らせたという。 「僕も、みんなで声を掛け合ってやる野球がとても楽しいです」  所属する西田野球クラブは、ちょうど創立50周年の大きな節目にある。2004年と06年には東京23区大会で優勝など、都大会常連の杉並区の老舗チームだ。23区大会の低学年の部では、2021年に8強まで進出。当時の4年生エースが、加賀だった。 球速は常時、110km/h前後。3年生からコーチ陣との二人三脚の努力で、現在の自然な形のスリークォーターに落ち着いたという 『昨日の自分に勝とう!そして今日より明日!』(山本修士監督)というスローガンを掲げる新チームは、山本真詩主将を中心に内外野の声掛けや個々の準備・対応力が際立っている。1月開幕の京葉首都圏江戸川大会はべスト8入り。加賀はこれにも投打で大きく貢献した。  長い手足を持て余すことなく、投げ込む速球は、コンスタントに110㎞/hあたり。随所でスローボールを交え、けん制もクイックも巧み。フィールディングやベースカバーもそつがない。そして進境著しいのが、マウンドさばきだ。 「正直、緊張したり、ちょっと悔しいとかいう時もありますけど、野球はチームプレーで成り立っているので、何かあっても切り替えて自分のピッチングをすることをいつも意識しています」  4月に入っての全国予選(区大会)では、これぞエースという内容の完投勝利もあった。不運なジャッジや味方にミスがあっても制球を乱さず(与四球1)。3点リードの最終回に2点を失い、なお二死三塁で迎えた三番打者に対しても、表情ひとつ変えることなく右腕を振って見逃し三振に。 「最後は自信を持って、思い切りストレートを投げられました」 肘肩とのケガと無縁。ひと際長いコンパスは、明るい未来を指し示すかのよう  周囲に聞けば、学力も優秀だという。黒縁のメガネにも増して、知性を裏付けるのが打席内での機微の目的を問うた際の答えだ。...

新4年生の“野球の申し娘”。願いよ、夢よ、どこまでも

新4年生の“野球の申し娘”。願いよ、夢よ、...

2023.03.27

【2023注目の逸材】 石井心結 いしい・みゆう 【所属】東京・カバラホークス 【学年】4年 【ポジション】すべて(主に遊撃手・投手) 【主な打順】二番 【投打】右投右打 【身長体重】135㎝30㎏ 【好きなプロ野球選手】今宮健太(ソフトバンク) ※2023年3月26日現在    陽光を跳ね返すサングラスがなじんでいた。クリアな視界にフィールドの仲間をとらえつつ、次の展開や打球を描いて指示を送る。投手がモーションに入ると動き出せる体勢をとり、打者のスイングに合わせて必ず軽く反応する。  一塁を守れば、右足の触塁まで基本どおりで、味方からの難しい送球もグラブに収めるか、体で止めるか。遊撃を守れば、声掛けの範囲と頻度はさらに増し、強い当たりも吸い込むような捕球からステップを踏んで一塁へダイレクトで投げる。 「守るのはどのポジションもできますけど、自分でやりたいと思っているのはピッチャーとキャッチャーです」 新4年生にして全ポジションをそつなくこなせる。視野が広く、仲間に掛ける言葉も適格だ  3年生にしてオールラウンダーの34番(2022年度)。チームでは無二の背番号を全員で共有しており、石井心結は「10」ではないが、低学年チームのキャプテンだ。昨年は1学年上の世代に混じって東京23区大会でもプレー。知識と基礎技術も群を抜いており、チーム事情や対戦相手や状況などによってポジションが変わる。どこを守ってもベンチの信頼を損なうことがなく、仲間には頼もしいリーダーであり続ける。 「いつも意識しているのはチームをまとめることで、試合中はチームが勝つことを考えて動いています。野球で一番好きなのはバッティングです。センター返しを意識しています」 不動の二番打者は打席に入る前から、ベンチのサインも指示もお見通しの様子  二番打者として送るべき場面では確実に送り、出るべき場面ではストライクを初球からいく。一塁に出れば二盗は朝めし前という感じで、相手のスキを逃さず進むので得点率も異常に高い。そしてベンチに戻れば誰に指示されるでもなく、打ち終わりやネスクトの打者にアドバイスをしたり、鼓舞したり。  野球が楽しくて楽しくて、好きで好きでたまらない。1試合を見ただけでも、そんな思いの丈が伝わってくる。7つ上の兄と5つ上の姉をもつ3兄妹の末っ子で、父・弘さんは背番号29のコーチ。もの心ついたときから、兄とのキャッチボールや練習の手伝いが遊びであり、石井家は「野球」でより深く結びついている。  しかし、姉はチームに属していないように、すべては本人次第。野球も練習も親からの強制では決してない、と母・園江さんは語る。「心結(みゆう)も、幼いころからボールを投げて遊んではいましたけど、そんなに野球に興味がある感じでもなくて、チームに入るとは思っていませんでしたね」。 すべて自分の意志で  一気にハマったのは小1の12月だ。友人に誘われて兄が所属したカバラホークスの体験会へ。帰宅するなり「楽しかった!」と漏らした次女の“申し子”的な野球生活が、その日から始まった。  チーム練習は週末と祝日で、低学年は半日のみ。石井は平日でも「ボールやバットに触らない日はないですね」と母が語るように、ネットを張った自宅の駐車場で羽根打ち、近所の空き地でピッチングなど自主練習に励む。兄が高校球児となってからは生活サイクルが異なるため、父と朝練習をしているという。 「朝は寒いので体を温めてから、キャッチボール、ゴロ捕り、羽根打ちが基本の流れ。親から見ても野球への思いが純粋な子ですし、チームでも自主練でも主体的にやるタイプですね」(父・弘さん)...

神宮でキラリ!二芸に秀でた北の原石

神宮でキラリ!二芸に秀でた北の原石

2023.03.09

【2023注目の逸材】 宮崎煌大 みやざき・こうだい 【所属】北海道・星置レッドソックス 【学年】6年 【ポジション】投手※全ポジション可能 【主な打順】二番、三番 【投打】左投左打 【身長体重】155㎝48㎏ 【好きなプロ野球選手】杉内俊哉(元巨人ほか)、大谷翔平(エンゼルス) ※2023年3月8日現在    閃光とまではいかなくとも、冬の神宮球場で間違いなく光った、北の二刀流だ。2022年暮れのポップアスリートカップ全国ファイナルトーナメント。至難の北海道予選を制して2年連続3回目の出場を果たした星置レッドソックスは、6年生(当時)4人の若いチームながら、同トーナメント初白星を挙げた。左投げにして遊撃も守った宮崎煌大(当時5年)は、続く準々決勝で先発のマウンドへ。   「去年の全国(同トーナメント)は、僕は試合に出られなかったので、今年は自分が出て投げて1勝しよう、と」   「下半身をもっと使えるようになれば、伸びしろがさらに広がるはず」。投手育成に定評のある渡辺監督の期待値も高い    1対2の惜敗で思いは叶わなかった。しかし、打者と駆け引きしながらの緩急のピッチングは経験値の高さを、巧みなターンと連係による二塁けん制は練習の量を物語るようだった。打順は三番に入り、左打席から鮮やかなクリーンヒットも放ってみせた。   「宮崎の一番良いところは、物怖じしないところ。実はコロナ感染後の自宅待機が明けたばかりで、ボールに触れたのは10日ぶりくらい。いきなりの実戦だったんですよ」  試合後にそう明かしてくれた渡辺敦監督は、6年生卒団後の新チームでも宮崎をあらゆるポジションで意図的に起用しているという。「捕手もやらせました。もちろん、投手の柱は宮崎なんですけど、一枚だけでは大会を勝ち抜けませんし、何より彼には視野を広げてもらいたいんですよね」。 打線でもキーマン、相手や狙いによって二番か三番を任される。「バッターでは大谷選手が好きです」   仲間6人と描く夢   投げると打つで十分に秀でている。それだけに、野球をより深く理解して状況を読んだり、次の一手も考えて動けるようになってくると輝きはさらに増す、と指揮官は踏んでいるのだ。宮崎自身はセールスポイントをこう語る。...

数年後の甲子園出場を期す、埼玉の新人戦V腕

数年後の甲子園出場を期す、埼玉の新人戦V腕

2023.03.09

【2023注目の逸材】 髙橋隼太 たかはし・はやた ※投球・打撃の動画→こちら 【 所属】埼玉・泉ホワイトイーグルス 【学年】6年 【ポジション】投手、三塁手 【主な打順】四番 【投打】右投右打 【身長体重】150㎝43㎏→153㎝44㎏ 【好きなプロ野球選手】柳田悠岐(ソフトバンク) ※2023年3月8日現在→7月15日更新    プロ野球選手という遠い夢を漠然と描いているクチではない。新6年生の髙橋隼太の夢は、もっと近くて具体的だった。 「甲子園に出ることです!」  気負いもなく平然と語るのは、かつて東海大相模高(神奈川)でプレーして聖地の土を踏んでいる父親へのリスペクトもあるからだろう。5つ上の兄(現・埼玉栄高)が小1で泉ホワイトイーグルスに入団したときから、グラウンドを週末の主な遊び場とし、白球や年長者らと戯れてきたせいもあるのだろう。  そんな彼の投打をフィールドで目の当たりにして、本人より大きな夢や期待を抱いてしまう大人も少なくないようだ。筆者もそのひとり。  小5秋の関東大会で最速107㎞/hをマーク。体全体を使った、安定感のあるフォームは明るい未来を暗示するかのよう  この2023年、1月最初の週末に東京・板橋区で行われた大交流大会では、滋賀県の強豪・多賀少年野球クラブを相手に左越えホームランを1本。勝負には敗れたものの、マウンドではクセのない美しい投球フォームと速球を披露した。 「僕は右打ちですけど、柳田悠岐選手(ソフトバンク)のバッティングを参考にしています。どちからと言えば、打つより投げるほうが好きです」 20年ぶり全国へ  エースで四番打者、背番号10(主将)の髙橋ら新6年生10人を中心とする新チームは昨秋、埼玉県大会を制して関東大会まで進出した。1回戦で逆転負けはしたが、この2月の卒団式を経て最上級生となった10人は「全国で一番になりたい」と異口同音に語ったという。  就任12年目の井上貴徳監督は、その目標を踏まえて週末に指導をしているが、平日は努力の強制をしていない。 「やるもやらないも本人たち次第。毎年の目標は選手が自分たちで決めて、平日は各自で考えてやってください、というのがチームの方針です。そこでどれだけやってきのか、彼らの本気度も週末の動きでだいたいわかります」 パンチ力も秘めた右のスラッガー。写真はこの1月に多賀少年野球クラブ(滋賀)との一戦で放った左越えの本塁打 「当たり前を当たり前にやれる人間になってほしい。そのためには自分から積み重ねることが大切で、それを学んでもらえれば」と、育成理念を語る指揮官の新主将評はこうだ。...

今夏の全国制覇まで、 十字架を背に進化する

今夏の全国制覇まで、 十字架を背に進化する

2023.02.16

【2023注目の逸材】 貴志奏斗 きし・かなと ★8月4日UP★守備・打撃・投球の動画→こちら 【所属】大阪・新家スターズ 【学年】6年(主将) 【ポジション】投手、遊撃手 【主な打順】三番 【投打】右投右打 【身長体重】143㎝45㎏→145㎝50kg 【好きなプロ野球選手】山川穂高(西武) ※2023年1月20日現在→8月4日更新 昨夏の全国大会は三塁の堅守で4強入りに貢献したが…    台風接近に伴う豪雨。屋根を叩く雨音もかき消すかのように、敗退した新家スターズの面々がベンチ裏で泣きじゃくっていた。中でも「僕のせいで負けました。6年生に申し訳ないです…」と、激しく嗚咽をもらしていたのが、当時5年生の貴志奏斗だった。  昨夏の全日本学童大会準決勝(駒沢オリンピック公園)は、試合半ばから雨脚が強まり、度重なる中断の末にどうにか決着。新家は、優勝することになる中条ブルーインパルス(石川)に逆転負けした。4回表に2対1と逆転するも、5回裏の守りで二死二、三塁からのトリックプレーに対して三塁手が適時悪送球、2対3と再逆転されて勝負は決した。   「雨で手が滑りました」   忘れようと思っても忘れられるはずがない。痛恨の投げミスをした三塁手が貴志だった。そこまでは、4試合で計8回の守備機会をノーミスで通し、軽快な身のこなしや打球への鋭い反応、そして安定した送球も特筆に値するものだった。涙に暮れた6年生(当時)たちも、そんな後輩を責めるはずがない。が、指揮官は“鬼”だった。 「オマエのエラーで負けたんや!」   全員を前に、泣きじゃくる5年生に非情とも思える一言を浴びせた。   2011年から率いる千代松監督は卒団生の一人。鋭い洞察眼に愛のある厳しさでチームを仕上げ、全国スポ少交流を過去に2度制している   獅子の子、這い上がる  レベルの高さと実績で群を抜く大阪府の学童野球界。ここを勝ち抜くだけでも至難だが、新家スターズは近畿代表として出場した2015年と19年の全国スポ少交流大会を制している。常に全国の頂点をうかがう強豪で、率いる千代松剛史監督の指導は生ぬるくない。百獣の王を思わせるその鋭い眼光で、日々のウォーミングアップ中から選手の心持ちや個性を見抜いてしまう。...

夏の全国で「10HR」 夢実現へ野球漬けの日々

夏の全国で「10HR」 夢実現へ野球漬けの日々

2023.02.16

【2023注目の逸材】  中橋開地 なかはし・かいじ 【所属】福井・越前ニューヒーローズ 【学年】6年 【ポジション】三塁手、投手 【主な打順】四番 【投打】右投左打 【身長体重】148㎝56㎏ 【好きなプロ野球選手】大谷翔平(エンゼルス) ※2023年1月19日現在    中橋開地と米澤翔夢(よねざわ・とむ)。福井のTKコンビが、ことしの学童球界を席捲することになるかもしれない。  ふたりがプレーする越前ニューヒーローズは昨夏、全国初陣(全日本学童)でベスト8まで進出。2人の6年生(当時)を含めて選手は計15人、3年生もスタメンに入る若い布陣ながら、冷静にタクトを操る田中智行監督の下、好球必打の打撃と粘り強い守備で快進撃を演じた。 昨夏の全国大会でプレーした新6年生5人。中央が中橋、左が米澤  迎えた準々決勝の朝に、チーム内で新型コロナウイルス感染が判明して涙の棄権(不戦敗)となったが、「僕たちは全国でまだ負けていない」と胸を張るのは新6年生の中橋だ。 「卒団した6年生2人の分まで、今年も神宮(全国大会)に行って優勝する、とみんなで話しています。個人的には神宮でホームランを10本ぐらい打ちたいです」  新チームで四番を張る左の大砲・中橋は、昨夏の全国で衝撃的な一発を放っている。3回戦の5回裏、ライトの特設フェンスの向こうへ逆転の決勝3ラン。「内に入ってくるボールを自然に払う感じで打てました。今までのホームランの中でも一番、気持ちがいい、完璧な1本でした」。 ライバルと家族の存在  打順は当時、三番。全国2試合目のトータル7打席目にして、ようやく出た長打だったが「それまでもバッティングの内容は良かったので、焦らなくてもいつか出ると思っていました」。終わってみれば、計6打数3安打3打点1本塁打の打率5割をマークしていた。     昨夏の全国大会では打率5割。逆転決勝3ランも放っている  新チームで中橋の前後を打つ米澤は、昨夏の全国の2回戦でサク越えの満塁アーチを放った右の大砲。指揮官によると、ふたりの打力は甲乙つけがたく、より遠くに飛ばすのは米澤、より広角に打てるのが中橋という評価だ。このTKコンビは互いを認め合うライバル。練習中はともに「負けたくない」と目をぎらつかせ、今日も切磋琢磨している。  火・水・金はチームで平日練習がある。中橋は月曜日は野球塾「スマイ輪INGスポーツクラブ」で投打の動作チェック。木曜日は母が投じるシャトルを30分から1時間、たっぷりと打ち込む。まさしく野球漬けの365日は自ら望んでのことで、「上を狙うため、全国大会に行くためにやっています」。  たまの息抜きは、コーチでもある父・大地さんとの海釣り。魚介系も好んで食べるが、やはり肉が大好物。多いときには、1㎏の白米もたいらげるという。...

世代No.1サウスポー 経験も身体能力もピカイチ

世代No.1サウスポー 経験も身体能力もピカイチ

2023.02.16

【2023注目の逸材】 藤森一生 ふじもり・かずき ※投球・打撃・二盗の動画→こちら  【所属】東京・レッドサンズ 【学年】6年 【ポジション】投手 【主な打順】一番、三番 【投打】左投左打 【身長体重】161㎝48㎏→165㎝51kg 【好きなプロ野球選手】田口麗斗(ヤクルト)、村上宗隆(同)、柳田悠岐(ソフトバンク) ※2023年2月19日→6月17日更新   全日本学童都大会決勝での最速は120km(2023年6月17日、府中市民球場)。大会中に自己最速を121㎞に大幅更新している  世代No.1サウスポーと言っても、差し支えないだろう。長いリーチを生かして、真上から投げ込むストレートは110㎞/hを超える。得点差や打順、ボールカウントや自らの状態などによって、クイック投法や遅球も巧みに使い分ける。  夏の全国舞台ともなれば、同程度の好投手も出てくるが、藤森一生は一歩上をいく。打者の内角をズバリと突く度胸とスキルを備えているのだ。「キャッチャーがインコースに構えてくれたら、そこに投げられるのが僕の一番良いところ。ヤクルトの田口選手のように、『ここぞ』の場面で抑えられる投手になりたいです」 長い手足を利したダイナミックなフォームから速球を投げ込む   経験値も群を抜いている。昨夏の全日本学童では1回戦から準々決勝まで全4試合に登板。2回戦(対松浦少年野球クラブ・長崎)では打者10人をシャットアウト(1四球)など、主戦級の働きでチーム最高成績となる全国8強入りに貢献した。また全日本学童は4年時にも、八番・左翼でスタメン出場している(1回戦敗退)。 「去年の全国は僕がホームランを打たれたり、考えが甘かった。今年は3度目の正直で、今のメンバーたちと笑って終われる夏にしたいです」 6月17日の全日本学童決勝は2四球と左中間二塁打(写真下)。50m走は6年生のスポーツテストで6秒84をマークしたという  オフェンス面も見過ごせない。昨夏の全国では一番打者で11打数6安打2打点の打率.545、二塁打3本。駆けるスピードも出色で、大地の反発も利した前傾姿勢でぐんぐん加速する様に思わず目が奪われる。通う小学校内では負けなしの俊足だという。 「僕は一番か三番を多く打たせてもらうんですけど、次のバッターにつなげられるようにヒット狙いを意識しています。大きいのは結果として出ると思っています」  勝負年の元旦翌日に始動  投げてよし、打ってよし、走ってよし。さらに快弁で努力家とくる。正月は2日から、父親と茨城県でランメニュー中心に体を鍛えてきた。平日の4日間は体幹トレや置きティーなど、自主練習をしているという。 「これからも(投打)二刀流でいきたいです。打つほうではヤクルトの村上選手のように、チャンスでも一発を打てる選手を将来的に目指していきます」  ...